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35a69b0e44be29030db78a8674a06b03af49f6c1
[luatex-ja/luatexja.git] / doc / sample1.tex
1 %#! time luatex sample1
2 \input s1sty.tex % style file
3
4 \message{BB}
5 \overfullrule=0pt
6 \def\LaTeX{L\kern-.36em\setbox0=\hbox{T}\vbox to\ht0{\hbox{\sevenrm A}\vss}\kern-.15em\TeX}
7 \font\mff=manfnt at 10pt
8 \def\mf{{\mff META{\rm\-}FONT}}
9 \def\textfontii{\the\textfont2 }
10 \def\AmS{{\textfontii A\kern-.1667em\lower.5ex\hbox{M}\kern-.125emS}}
11 \def\UPSILON{\char'7}%
12 \def\XyM{X\kern-.30em\smash{\raise.50ex\hbox{\UPSILON}}\kern-.30em{M}}%
13 \def\XyMTeX{\XyM\kern-.1em\TeX}%
14
15
16 % main matter
17 \centerline{\big Lua\TeX-jaパッケージ}\bigskip
18 \centerline{\large\the\year/\the\month/\the\day}\medskip
19
20 \message{AA}
21 \bigskip
22
23 本パッケージは,(最低でもp\TeX と同等の水準の)日本語組版をLua\TeX 上で実現させることを
24 目標としたマクロである.まだまだ足りないところはあるが,とりあえず動くようになった?ので公開する. 
25
26 %{\showboxdepth=10000\showboxbreadth=10000\tracingonline=1\scrollmode\showlists}\end
27
28 \beginparagraph 特徴
29
30 \item 欧文フォント/和文フォントの内部独立管理.
31 \item 違う和文フォントでも「メトリックが同じ」なら,字間に空白を挿入する際には同じものとして扱う.
32 {\bf 例}: 「ほげほげ){\gt (ふがふが}」は以下の出力より得られた:
33 \begintt
34 ほげほげ){\gt (ふがふが}
35 \endtt
36 \item 欧文や和文のベースライン補正が可能.
37 \item p\TeX とある程度コマンド名が互換.
38 \enditem
39
40 \beginparagraph 制限
41
42 \item 全体的にテスト不足です.
43 \item 合字の前後の和欧文間空白の挿入処理は適当{\small(合字でない場合の処理をそのまま流用)\inhibitglue}.
44 \item {\bf 現時点で\LaTeX での使用は殆ど考慮されていません.``plain Lua\TeX''で使ってください.}
45 \item |\accent|を和文文字に対して使うことはできません.これは「フォントを後で置換する」という実装上,
46 仕方のないことだと思われます.
47 \item 数式中の日本語は想定していません.|\hbox|か何かで囲ってください.
48 \item p\TeX にあった以下の機能はまだ実装していません.
49 \itemitem |\euc|, |\jis|, |\sjis|, |\kuten|といった,コード変換プリミティブ.
50 \itemitem |\kansuji|, |\kansujichar|.
51 \itemitem |\showmode|, |\jfam|, |\jcharwidowpenalty|.
52 \itemitem 縦組み関連一式.|\tate|, |\tfont|, |\tbaselineshift|, |\dtou|,$\,\ldots$
53 \enditem
54
55
56 \beginparagraph ファイル構成
57
58
59 \item {\tt luatexja-core.sty}: 
60 コア部分.拡張子は{\tt sty}であるが,この単一のファイルでplain \TeX と\LaTeX 両方に
61 対応するように設計する方針である.しかし,
62 {\bf 現時点で\LaTeX での使用は全く考慮されていない.}
63 \item {\tt luatexja-core.lua}: コア部分に使われるLuaコード.
64 \item {\tt luatexja-jfont.lua}: 和文フォント定義部のLuaコード.
65 \item {\tt luatexja-rmlgbm-data.lua}: 非埋込和文フォント用のデータ(小塚明朝Pr6N R由来).
66 \item {\tt mk-rmlgbm-data.tex}: {\tt luatexja-rmlgbm-data.lua}作成用スクリプト(小塚明朝を{\tt luaotfload}で読み込んだ時のキャッシュが必要).
67 \item {\tt luatexja-kinsoku.tex}: 禁則用ペナルティ等のパラメータを書いたファイル.
68 下のファイルによって{\tt ukinsoku.tex} (in up\TeX-0.30) から自動生成されたもの.
69 \item {\tt luatexja-kinsoku\_make.tex}: 上の{\tt luatexja-kinsoku.tex}製作用ファイル.
70 \item {\tt luatj-ujis.lua}: up\TeX-0.30の{\tt ujis.tfm}ベースのメトリックサンプル.
71 \item {\tt luatj-mono.lua}: 「全文字が全角幅」のメトリックサンプル.
72 \enditem
73
74 \beginsection 使用方法
75
76 大雑把に言うと,plain \TeX の状況で,以下のようにすればよい.
77 \begintt
78 \input luatexja-core.sty               % ←マクロ本体を読み込み
79 \jfont\tenipam={file:ipam.ttf:jfm=ujis} at 13.5\jQ 
80 \tenipam\parindent=1\zw 
81
82 \rm\tenipam abcほげほげ)(あいう本文本文……
83 \endtt
84
85 \beginsection 実装解説
86
87 \beginparagraph attributes, dimensions,$\,\ldots$
88
89 以下はLua\TeX-jaパッケージ内で使用するattributeやその他の種類のレジスタである.
90 上6つは内部処理用なので利用者が意識することはない.それ以外は,p\TeX に類似の名前の
91 primitiveがあることから,意味は容易にわかるだろう:
92
93 \item attribute |\luatexja@curjfnt|: 現在の和文フォント番号
94
95 p\TeX では内部のグローバル変数で「現在の横組/縦組和文フォント」をそれぞれ保持していたが,
96 当然ながら欧文用\TeX ではそのようなことはそのままではできない.
97 node~$p$が保持しているattribute |\luatexja@curjfnt|の値$k$は,
98 「もし$p$の中身が和文文字であれば,そのフォントは$k$番の番号のフォントである」という意味をもつ.
99
100 \item attribute |\luatexja@charclass|: (和文文字の)文字クラス
101
102 \item attribute |\luatexja@icflag|: この属性をもつkernはイタリック補正由来である
103
104 p\TeX では,|\kern|由来のkernと,イタリック補正由来のkernを内部で区別していた.しかし,
105 欧文用の\TeX ではそのような区別はなく,Lua\TeX においても区別がないようである.
106
107 \item language |\luatexja@japanese|: 「日本語」に対応する|\language|番号
108
109 \item attribute |\luatexja@yabaselineshift|: 欧文文字ベースラインの補正量.
110 \itemitem {\bf sp$\fam\bffam {}=2^{-16}\,{\bf pt}$単位の整数値}で指定.
111 正の値を指定すると,その分だけ欧文文字は下にずれる.
112 \itemitem 数式中では,boxやruleもこの量だけずれる\hfil\break
113 (よって,行中数式は全体が|\yabaselineshift|だけずれたように見える).
114 \item attribute |\luatexja@ykbaselineshift|: 和文文字ベースラインの補正量.
115
116 p\TeX では「和文が主」という考えからか,常に和文文字のベースラインが基準であり,
117 欧文文字の方をずらすことになっていた.しかし,「欧文の中に和文をちょっと入れる」ような場合では,
118 逆に和文文字をずらす方が理にかなっているので,和文文字のベースラインもずらせるようにした.
119
120 また,これを用いることで%
121 {\small 異なる文字サイズの文字を「上下中央揃え」で組む}ことも可能.
122 \item skip |\kanjiskip|: 和文文字同士の間に入る空白量.
123 \item skip |\xkanjiskip|: 和文文字と欧文文字の間に入る空白量.
124 \item count |\jcharwidowpenalty|: {\bf 未実装}
125 \item dimen |\zw|, |\zh|: 現在の和文フォントの「幅」/「高さ」(メトリックから指定)
126 \item dimen |\jQ|, |\jH|${}= 0.25\,{\rm mm}$
127 \enditem
128
129
130 \beginparagraph 和文フォントの定義
131
132 Lua\TeX-jaでは,大雑把にいうと
133 和文フォントは「実際の字形」と「和文用のメトリック情報 (JFM)」の組である.
134 JFM は和文文字の幅や,和文文字間の空白の入り方などを規定するもの%
135 {\small (p\TeX におけるJFMファイルとほぼ同じ内容)}であり,
136 |jfm-<name>.lua|という名称のファイルにLuaコードの形で書かれている.
137
138 和文フォントを使うには,
139 \TeX の|\font| primitiveと同様の書式を持った次の命令を用いて和文フォントを定義する:
140
141 \begintt
142   \jfont<font>={<fontname>:<features>} <size>  % local に定義
143   \gjfont<font>={<fontname>:<features>} <size> % global に定義
144 \endtt
145
146
147 \item {\bf <fontname> の指定について}\par\noindent
148 内部でluaotfloadパッケージを読み込んでいる.大きくわけて,以下の4種類がある.
149 このうち,前の2つはluaotfloadパッケージの機能である.
150 \itemitem |file:<filename>|\par\noindent
151 TrueType/OpenTypeフォントをファイル名<filename>で指定.
152 \itemitem |name:<fontname>|\par\noindent
153 システム内のフォント名を<fontname>に指定することも可能.
154 \itemitem |psft:<PSfontname>|\par\noindent
155 PSフォント名<PSfontname>を直接指定することもでき,
156 この場合はフォントは名前だけ(非埋込)となる.
157 例えば,本文章では,
158 \begintt
159 \jfont\tenmc={psft:Ryumin-Light:jfm=ujis} at 13.5\jQ
160 \jfont\tengt={psft:GothicBBB-Medium:jfm=ujis} at 13.5\jQ
161 \endtt
162 のような定義をし,標準和文フォントRyumin-Light, GothicBBB-Mediumを用いている.
163 %\itemitem |vf:<vfname>|
164
165 \item {\bf JFMの指定}:<features>欄に次を指定する.\par\noindent
166 \itemitem |jfm=<jfmfile>|: JFMとして|jfm-<jfmfile>.lua|を用いることを示す.必須.
167 \itemitem |jfmvar=<varkey>|\par\noindent
168 和文文字間の空白の挿入処理は,使用するJFMと,この<varkey>の値とのペアによって行われる.
169
170 \item luaotfload packageの他の機能,例えば各種のfeature,を用いてもよい:
171 \begintt
172 \jfont\tenipam={file:ipaexm.ttf:script=latn;+jp90;jfm=mt}
173 \endtt
174 なお,非埋込の場合は,GSUB/GPOSテーブルとして小塚明朝 Pr6N Rのものが用いられる.
175 \enditem
176
177 \beginparagraph 組版パラメタの調整
178
179 日本語組版用の各種パラメタの調整には,次の命令を用いる.
180 \begintt
181   \setjaparameter{<key>=<value>, ...}       % local に変更
182   \globalsetjaparameter{<key>=<value>, ...} % global に変更
183 \endtt
184
185 <key> に許される値は次の通りである.
186
187 \enum ★がついているものは,段落や水平ボックス構成時の値が全体に影響するものである.
188
189 \enum ◎がついているものは,自動的にglobalな代入となってしまうもの.
190
191 \item |prebreakpenalty={<chrcode>, <penalty>}|★◎\par\noindent
192 p\TeX の|\prebreakpenalty|に対応した設定項目である.
193 \itemitem <chrcode>: 文字コードを指定する.一旦補助カウンタに代入されるので,
194 16進法での数値の指定 (|"abcd|) や,%"
195 文字トークンによる指定 (|`あ|) も可能である.
196 \itemitem <penalty>: penalty の値を0から10000までの自然数で指定する
197 {\small(範囲外でも可能だが)\inhibitglue}.
198
199 \item |postbreakpenalty={<chrcode>, <penalty>}|★◎\par\noindent
200 同様に,p\TeX の|\postbreakpenalty|に対応した設定項目である.
201 p\TeX では,同一文字に対して|\prebreakpenalty|, |\postbreakpenalty|の両方を定義する
202 ことはできなかったが,Lua\TeX-jaでは可能である.
203
204 \item |cjkxspmode={<chrcode>, <mode>}|★◎\par\noindent
205 p\TeX の|\inhibitxspcode|に対応した設定項目である.<mode>で許される値は,
206 \itemitem 0, 1, 2, 3: p\TeX の対応するprimitiveと同じ意味.
207 \itemitem |inhibit|: 前後の欧文文字との間の|\xkanjiskip|自動挿入を禁止.
208 \itemitem |preonly|: 前の欧文文字との間の|\xkanjiskip|自動挿入のみを許可.
209 \itemitem |postonly|: 後の欧文文字との間の|\xkanjiskip|自動挿入のみを許可.
210 \itemitem |allow|: 前後の欧文文字との間の|\xkanjiskip|自動挿入を許可.
211 \item |asciixspmode={<chrcode>, <mode>}|★◎\par\noindent
212 同様に,p\TeX の|\xspcode|に対応した設定項目である.
213 \item |yabaselineshift=<dimen>|:
214 欧文文字のベースライン補正量をdimensionで指定する.
215 \item |ykbaselineshift=<dimen>|:
216 和文文字のベースライン補正量をdimensionで指定する.
217 \item |kanjiskip=<skip>|★\inhibitglue: |\kanjiskip=<skip>|と同じ意味.
218 \item |xkanjiskip=<skip>|★\inhibitglue: |\xkanjiskip=<skip>|と同じ意味.
219 \item |jcharwidowpenalty=<penalty>|★\inhibitglue: |\jcharwidowpenalty=<penalty>|と同じ意味.
220 \item |autospacing[=<bool>]|★◎\par\noindent
221 和文文字間のglue(|\kanjiskip|)の自動挿入をするかしないかを制御.
222 \item |autoxspacing[=<bool>]|★◎\par\noindent
223 和欧文間のglue(|\xkanjiskip|)の自動挿入をするかしないかを制御.
224
225 \item |differentjfm=(large/small/average/both)|★◎\par\noindent
226 異なる$(\hbox{<jfm>}, \hbox{<varkey>})$である2つの和文文字の間の
227 glue/kernの計算方法を設定する.
228 左側文字由来,右側文字由来のものが両方存在した場合にのみ効力をもつ.
229 \itemitem {\tt large}: glue/kernの幅が両者のうち大きい方になるように定める.
230 \itemitem {\tt small}: 両者のうち小さい方.
231 \itemitem {\tt average}: 両者の相加平均.
232 \itemitem {\tt both}: 両者の合計値の幅をもつglue/kernを挿入する.
233
234
235 \enditem
236
237 \beginparagraph inhibitglue
238
239 |\inhibitglue|
240 : 指定箇所での和文フォントメトリック由来のglue/kernの挿入を禁止する.
241 内部的には,|user_id|が30111のwhatsit nodeを作成している{\small(メトリック由来の
242 glue/kern挿入処理で役目を終え,削除される)\inhibitglue}.
243
244
245 \beginparagraph 大まかな処理の流れ
246
247 Lua\TeX-jaパッケージでは,次のような流れで処理を行う.
248
249 \item 行末空白の削除: |process_input_buffer| callback
250
251 通常,\TeX において改行は空白とほぼ同じ意味であり,
252 改行した箇所には自動的に空白が入るようになっている.
253 だが,日本語ではそのような振る舞いは不自然であり,p\TeX でも
254 「和文文字で行が終わった場合,改行文字は無視する」という
255 使用になっている.
256
257 そこで,入力が和文文字で終わった場合,コメント文字を挿入することにより
258 この問題を解決する方法をとっている.
259 この部分のコードは前田氏のjafontspecパッケージの部分から拝借したが,挿入する文字を|%|から
260 (通常使用されることはないと思われる)|U+FFFFF|へと変更している.
261
262 \item 和文フォントへの置換: |hyphenate|, |hpack_filter| callbacks
263
264 この段階の前では,和文文字であっても,それを内部で表している|glyph_node|~$p$は,
265 「|\tenrm あ|」のように,欧文フォントが指定されている状態になっている.しかし,
266 $p$は「現在の和文フォント」の番号もattribute |\luatexja@curjfnt|として保持している.そのため,
267 この段階では,「和文文字が格納されている」|glyph_node|~$p$に対して,次を行う.
268
269 \itemitem $p$のフォントをattribute |\luatexja@curjfnt|の値に置換.
270 \itemitem $p$の|language| fieldを|\luatexja@japanese|の値に置換.
271 誤って和文文字間でハイフネーションがされてしまうのを防止するため.
272 \itemitem $p$の文字の文字クラスを計算し,その値をattribute |\luatexja@charclass|に格納.
273 これにより,|jp90|等のfeatureによりグリフが置換されても,文字クラスの値は保たれる.
274
275 \item (luaotfloadパッケージによるグリフ置換等の処理はこの位置で行われる)
276
277 \item メトリック由来glue/kernの挿入: |pre_linebreak_filter|, |hpack_filter|
278
279 ここで,メトリックに由来する和文文字間のglue/kernを挿入する.
280 基本的には連続する和文文字間に挿入するが,
281 \itemitem 水平ボックスの先頭/末尾,段落の先頭/末尾には「文字コード|'boxbdd'|の文字」があると
282 見做して空白を挿入する.
283 \itemitem 和文文字とそうでないもの(欧文文字,ボックス等)の間に関しては,
284 和文文字でない方は「文字コード|'jcharbdd'|の文字」であると見做す.
285 \itemitem フォントの異なる2つの和文文字においても,
286 両者のフォントのmetric keyとsizeが一致した場合は,
287 挿入処理においては「同じフォント」であるかのように扱う.
288 \itemitem  そうでない場合は,両者の間に「文字コード|'diffmet'|の文字」があると見做して,
289 両和文文字からそれぞれglue/kern |gb|, |ga|を計算し,そこから実際に入るglue/kernを
290 計算している(|\setjaparameter|中の|differentjfm|キーを参照).
291
292 \item |\kanjiskip|, |\xkanjiskip|の挿入: |pre_linebreak_filter|, |hpack_filter|
293
294 p\TeX の|adjust_hlist| procedureとほぼ同様の処理を用いて,
295 和文間glue |\kanjiskip|や和欧文間glue |\xkanjiskip|を
296 挿入する.
297 \itemitem 数式境界 (|math_node|) との間に|\xkanjiskip|を自動挿入するかの決定は,
298 p\TeX では数字{\tt 0}との間に挿入するかどうかで判定していたが,Lua\TeX-jaでは
299 「文字コード|'math'|の文字」で判定している.
300
301
302 \item ベースライン補正: |pre_linebreak_filter|, |hpack_filter|
303
304 この段階では,(主として)欧文文字のベースラインをずらす作業を行う.幸いにして,
305 Lua\TeX で文字を表す|glyph_node|には|y_offset| fieldがあるので,作業は楽である.
306
307 補正量は,attribute |\luatexja@yablshift|の値(先も書いた通り,sp単位)である.和文文字の
308 補正量は|\luatexja@ykblshift|の値で指定されるが,以前の「和文フォントへの置換」処理において,
309 |\luatexja@yablshift|へと値を移し変えているので,この段階では|\luatexja@yablshift|の値のみを気にしている.
310
311
312 さて,実際に補正されるのは次の場合である:
313 \itemitem 文字 (|glyph_node|)
314 \itemitem ボックス・rule(文中数式内部).これによって,数式全体が下がったように見えるはず.
315
316 \item 和文文字の幅の補正: |pre_linebreak_filter|, |hpack_filter|
317
318 例えば,括弧類は「フォント中では全角幅だが,組版では半角幅として扱う」ことが多いが,このように
319 文字幅を補正する処理を最後に行う.jafontspecパッケージのように,補正対象となる|glyph_node|~$p$%
320 を,しかるべき量のglueと共に|\hbox|にカプセル化して行っている.
321
322 \enditem 
323
324 \beginparagraph 和文フォントメトリックについて
325
326 Lua\TeX-jaで用いる和文用のメトリック情報は,次のような構文で書かれたLuaファイルである.
327 見本として,|luatj-ujis.lua|を入れてある.
328
329 \item |jfm.dir|: 組方向を指定する.将来的にはいずれ縦組(|'tate'|)を実装したいが,
330 現時点では横組(|'yoko'|)のみの対応.
331 \item |jfm.zw|, |jfm.zh|: それぞれ|\zw|, |\zh|のフォントサイズに対する割合を記述する.
332 通常は両方とも1.0となるだろう.
333 \item |jfm.define_char_type(<class>, <chars>)|
334
335 p\TeX 用{\tt JFM}で言うところの「文字クラス」を定義する.
336 \itemitem <class>は文字クラスを表す1以上$\hbox{\tt0x800}=2048$未満の整数.
337 \itemitem <chars>には,<class>に属する「文字」達のUnicodeにおけるコード番号を
338 リストの形|{...}|で記述する.
339
340 また,このリストには,以下の「仮想的な文字」も指定可能である.
341 \itemT |'boxbdd'|: 水平ボックスの先頭/末尾,段落の先頭/末尾.
342 \itemT |'jcharbdd'|: 和文文字達の連続の境界.
343 \itemT |'diffmet'|: 異なるメトリックの和文文字間に入るglueの計算に使われる.
344
345 \item |jfm.define_type_dim(<class>,<left>,<down>,<width>,<height>,<depth>,<italic>)|
346
347 文字クラス<class>ごとに,文字の寸法のフォントサイズに対する割合を記述する.
348 \itemitem <left>: 例えば開き括弧類は組版をする際には半角幅だが,TrueTypeフォント内では
349 左に半角空白が付け加わって全角幅となっていることが多い.このような場合,逆に
350 TrueTypeフォントを基準にすると,「左に半角幅ずらす」ことをしないといけない.
351 <left>はその「左へのずらし量」を指定する.
352 \itemitem <down>: 同様に,「下へのずらし量」を指定する.
353 \itemitem <width>, <height>, <depth>: それぞれ幅,高さ,深さ.
354 \itemitem <italic>: イタリック補正値(未実装).
355
356 \item |jfm.define_glue(<bclass>, <aclass>, <width>, <stretch>, <shrink>)|
357
358 文字クラス<bclass>の文字と<aclass>の文字の間に,自然長<width>,伸び<stretch>, 縮み<shrink>
359 (いずれもフォントサイズ基準)のglueを挿入する.
360
361 \item |jfm.define_kern(<bclass>, <aclass>, <width>)|
362
363 文字クラス<bclass>の文字と<aclass>の文字の間に,幅<width>のkernを挿入.
364
365 \enditem
366
367
368
369 \vfill\eject
370 \leftline{{\big 組版サンプル}\hfill
371 \noindent 出典: 日本語Wikipediaの「\TeX」の項,2011/3/10}
372
373 \bigskip
374 %% sample
375 \TeX(読み方については、「読み方」の小節を参照)は数学者・計算機科学者である
376 ドナルド・クヌース (Donald~E. Knuth) により作られた組版処理ソフトウェアである。
377
378 \beginsection 名称について
379
380 製作者であるクヌースによって以下のように要請されている。
381
382 \beginparagraph 表記法
383
384 正しくは“\TeX”と表記するが、それができない場合には
385 “{\tt TeX}”と表記する(“{\tt TEX}”と表記するのは誤り)。
386
387 \beginparagraph 読み方
388
389 \TeX はギリシャ文字の T-E-X(タウ・イプシロン・カイ)であるから、「テックス」ではなく、
390 ギリシャ語読みの [tex](「テフ」)のように発音するのが正しい。
391 しかしそのような発音は難しいので、クヌースは「テック」と読んでも構わないとしている。
392 日本では「テフ」または「テック」という読み方が広まっている。
393
394 \beginsection 機能
395
396 \TeX はマークアップ言語処理系であり、チューリング完全性を備えた関数型言語でもある。
397 文章そのものと、文章の構造を指定する命令とが混在して記述されたテキストファイルを読み込み、
398 そこに書かれた命令に従って文章を組版して、組版結果を{\tt DVI}形式のファイルに書き出す。
399 {\tt DVI}形式というのは、装置に依存しない (device-independent) 中間形式である。
400
401 {\tt DVI}ファイルには紙面のどの位置にどの文字を配置するかといった情報が書き込まれている。
402 実際に紙に印刷したりディスプレイ上に表示したするためには、{\tt DVI}ファイルを解釈する
403 別のソフトウェアが用いられる。{\tt DVI}ファイルを扱うソフトウェアとして、各種のヴューワや
404 Post\-Scriptなど他のページ記述言語へのトランスレータ、プリンタドライバなどが利用されている。
405
406 組版処理については、行分割およびページ分割位置の判別、ハイフネーション、リガチャ、
407 およびカーニングなどを自動で処理でき、その自動処理の内容も種々のパラーメータを変更する
408 ことによりカスタマイズできる。数式組版についても、多くの機能が盛り込まれている。
409 \TeX が文字などを配置する精度は$25.4 / (72.27\times 2^{16})\,{\rm mm}$%
410 (約$5.363\,{\rm nm}$、$4{,}736{,}286.72\,{\rm dpi}$)である。
411
412 \TeX の扱う命令文の中には、組版に直接係わる命令文の他に、新しい命令文を定義するための
413 命令文もある。\TeX のこの機能を使って使用者が独自に作った命令文はマクロと呼ばれ、
414 こうした独自の改良をマクロパッケージと呼ばれる形で配布できる。
415
416 比較的よく知られている\TeX 上のマクロパッケージには、クヌース自身による plain \TeX、
417 一般的な文書記述に優れた\LaTeX\ ({\tt LaTeX})、数学的文書用の\AmS-\TeX などがある。
418 一般の使用者は、\TeX を直接使うよりも、\TeX に何らかのマクロパッケージを読み込ませたものを
419 使うことの方が多い。そのため、これらのマクロパッケージのことも “\TeX” と呼ぶ場合があるが、
420 本来は誤用である。
421
422 \TeX のマクロパッケージには、他にも次のようなものなどがある。
423
424 \item B{\sc ib}\TeX\ ({\tt BibTeX}) ……参考文献リストの作成に用いる。
425 \item S{\sc li}\TeX\ ({\tt SLiTeX}) ……プレゼンテーション用スライドの作成に用いる。
426 \item \AmS-\LaTeX\ ({\tt AMS-LaTeX}) ……
427 数学的な文書の記述に強い\AmS-\TeX の機能と\LaTeX の機能を併せ持つ。
428 \item \XyMTeX\ ({\tt XyMTeX}) ……化学構造式の描画に用いる。
429 \item MusiX\TeX\ ({\tt MusiXTeX}) ……楽譜の記述に用いる。
430 \enditem
431
432 \TeX とそれに関連するプログラム、および\TeX のマクロパッケージなどは CTAN(Comprehensive TeX Archive Network、
433 包括 TeX アーカイブネットワーク)からダウンロードできる。
434
435
436 \beginsection 数式の表示例
437
438 たとえば
439 \begintt
440 -b \pm \sqrt{b^{2} - 4ac} \over 2a
441 \endtt
442 は以下のように表示される。
443 $$
444 -b \pm \sqrt{b^{2} - 4ac} \over 2a
445 $$
446
447 また、
448 \begintt
449 f(a,b) = \int_{a}^{b}\frac{1 + x}{a + x^{2} + x^{3}}dx
450 \endtt
451 は以下のように表示される。
452 $$
453 f(a,b) = \int_{a}^{b}{1 + x \over a + x^{2} + x^{3}}dx
454 $$
455
456
457 \beginsection 生い立ち
458
459 \TeX は、クヌースが自身の著書The Art of Computer Programmingを書いたときに、組版の汚さに憤慨し、
460 自分自身で心行くまで組版を制御するために作成したとされている。開発にあたって、伝統的な組版および
461 その関連技術に対する広範囲にわたる調査を行った。その調査結果を取り入れることで、\TeX は
462 商業品質の組版ができる柔軟で強力な組版システムになった。
463
464 \TeX はフリーソフトウェアであり、ソースコードも公開されていて、誰でも改良を加えることができる。
465 その改良版の配布も、\TeX と区別できるような別名を付けさえすれば許される。また、\TeX は非常に
466 バグが少ないソフトウェアとしても有名で、ジョーク好きのクヌースが、バグ発見者に対しては
467 前回のバグ発見者の2倍の懸賞金をかけるほどである。この賞金は小切手で払われるのだが、貰った人は
468 記念に取っておく人ばかりなので、結局クヌースの出費はほとんど無いという。
469
470 クヌースは\TeX のバージョン 3 を開発した際に、これ以上の機能拡張はしないことを宣言した。
471 その後は不具合の修正のみがなされ、バージョン番号は 3.14、3.141、3.1415、$\ldots$というように
472 付けられている。これは更新のたびに数字が円周率に近づいていくようになっていて、
473 クヌースの死の時点をもってバージョン$\pi$として、バージョンアップを打ち切るとのことである。
474
475 クヌースは\TeX の開発と同時に、\TeX で利用するフォントを作成するためのシステムである
476 \mf も開発した。こちらのバージョン番号は 2.71、2.718、2.7182、$\ldots$というように、
477 更新のたびに数字がネイピア数に近づいていくようになっている。さらにクヌースは\mf を使って、
478 \TeX の初期設定欧文フォントであるComputer Modernのデザインも行った。
479
480 \TeX および\mf は、これもクヌース自身によって提唱されている文芸的プログラミング\ 
481 (Literate Programming) を実現する{\tt WEB}というシステムでPascalへトランスレートされることを
482 前提に記述されている。しかし実際には{\tt WEB2C}でC言語に変換してコンパイルされ実行形式を
483 得ることが多い。
484
485 \beginsection \TeX の日本語化
486
487 日本語組版処理のできる日本語版の\TeX および\LaTeX には、アスキー・メディアワークスによるp\TeX\ 
488 (pTeX) およびp\LaTeX\ (pLaTeX) と、NTTの斉藤康己によるNTT J\TeX\ (NTT JTeX) およびNTT J\LaTeX\
489 (NTT JLaTeX) などがある。
490
491 \TeX の日本語対応において技術的に最も大きな課題は、複数バイト文字コードへの対応である。
492 p\TeX(および前身の日本語\TeX)は、JIS X 0208を文字集合とした文字コード(ISO-2022-JP、EUC-JP、
493 およびShift\_JIS)を直接扱う。DVIフォーマットは元々16ビット以上の文字コードを格納できる仕様が
494 含まれていた。しかしオリジナルの英語版では使われていなかったため、既存プログラムの多くはp\TeX が
495 出力するDVIファイルを処理できない。またフォントに関係するファイルフォーマットが拡張されている。
496 これに対してNTT J\TeX は、複数の1バイト文字セットに分割することで対応している。例えば、
497 ひらがなとカタカナは内部的には別々の1バイト文字セットとして扱われる。このためにオリジナルの
498 英語版からの変更が小さく、移植も比較的容易である。ファイルフォーマットが同じなので英語版の
499 プログラムでDVIファイル等を処理することもできる。しかし後述するフォントのマッピングの問題が
500 あるため、実際には多くの使用者がNTT J\TeX 用に拡張されたプログラムを使っている。
501
502 使用する日本語用フォントについてはp\TeX が写研フォントの使用を、NTT J\TeX が大日本印刷フォントの
503 使用を前提としており、それぞれフォントメトリック情報(フォントの文字寸法の情報)をバンドルして
504 配布している。しかし有償であるこれらのフォントのグリフ情報を持っていなくても、画面表示や印刷の
505 際に使用者が利用できる他の日本語用フォントで代用することができる。つまり写研フォントや
506 大日本印刷フォントのフォントメトリック情報を用いて文字の位置を固定し、画面表示や印刷には
507 他の日本語用フォントを用いていることが可能である。このため日本語化された\TeX 関係プログラムの
508 ほとんどは、画面表示や印刷で実際に使うフォントを選択できるように、フォントのマッピング
509 (対応付け)を定義する機能を持っている。
510
511 歴史的には、アスキーが日本語\TeX の PC-9800 シリーズ対応版を販売したために個人の使用者を中心に
512 普及した。一方、NTT J\TeX は元の英語版プログラムからの変更が比較的小さいという利点を受けて、
513 UNIX®およびUNIX互換OSを使う大学や研究機関の関係者を中心に普及した。
514
515 しかし現在では次に挙げる理由から、日本語対応\TeX としてp\TeX が使われていることが多い。
516
517 \item UNIX®用、およびUNIX互換OS用の主な日本語対応\TeX 配布形態である
518 ptexliveやptetex3がp\TeX のみを採用している。
519 \item Microsoft Windows用の主な日本語対応\TeX 配布形態であるW32\TeX が
520 p\TeX を扱える(NTT J\TeX も扱える)。
521 \item p\TeX の扱い方を解説する文献の方が、NTT J\TeX のものに比べて、
522 出版物とWeb上文書の両方で多い。
523 \item p\TeX は縦組みにも対応しているが、NTT J\TeX は対応していない。
524 \enditem
525
526 \beginsection \TeX による組版の作業工程
527
528 \TeX を利用して組版を行うには、通常次のような作業工程を取る。
529
530 \enum テキストエディタなどを用いて、文章に組版用命令文を織り込んだソースファイルを作成する。
531 \enum OSのコマンドラインから “|tex FileName.tex|” などと入力して\TeX を起動し、
532   {\tt DVI}ファイルを生成させる。
533 \itemitem ソースファイルにエラーがあれば、修正して再度\TeX を起動する。
534 \enum {\tt DVI}ウェアとよばれる{\tt DVI}命令文を解するソフトウェアを用いて組版結果を表示し、確認する。
535 \itemitem {\tt DVI}ウェアにはxdvi/xdvikやdviout for Windowsなどの{\tt DVI}ヴューア、
536   Dvips(k)やdvipdfm/DVIPDFM$x$などのファイル形式変換ソフトウェアなどがある。
537 \itemitem {\tt DVI}ファイルを{\tt DVI}ヴューアで画面表示または印刷する、
538   あるいはPDFやPost\-Scriptに変換して画面表示または印刷することで、組版結果を確認する。
539 \itemitem 修正の必要があれば、ソースファイルを修正して再度{\tt DVI}ファイルを作成、確認する。
540 \enditem
541
542 この間、作業工程が変わるたびにそれぞれのプログラムを切り替えたり、
543 扱う文書が大きいと章ごとにソースファイルを分割して管理したりと、比較的煩雑な作業を伴う。
544 そのため、この工程に係わる各種のプログラムやソースファイルの管理を一元的に行う
545 \TeX 用の統合環境がいくつか作成されている。
546
547 \beginparagraph GUI環境と\TeX
548
549 GUIはPCの普及に一役買ったが、同時にGUIしか触ったことのないPC利用者が増加した。
550 そのような利用者が、コマンドラインでの操作を余儀なくされる\TeX を非常に扱いづらく
551 感じてしまうのは否めないことである。
552 このため、GUIに特化した\TeX 用統合環境もいくつか作成されている。
553 \end